曲目解説【5/19 室内楽コンサート】 第23回別府アルゲリッチ音楽祭

C. フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調
1.Allegretto ben moderato
2.Allegro
3.Recitativo-Fantasia
4.Allegretto poco mosso
 セザール・フランク(1822-90)はベルギー出身だが、フランスで活動し、フランスの音楽界で重要な役割を果たした。当時フランスでは、全曲にわたって共通の主題を用いて全体の統一を図る循環手法が発達したが、フランクはとりわけこの手法を徹底的に用いた作曲家だった。1886年の所産であるこのソナタも、4つの楽章を循環手法で関連付けつつ、渋い色調のうちに内面的な叙情とロマン的情熱に満ちた音楽を展開したいかにもフランクらしい傑作である。曲は、同じベルギー出身の大ヴァイオリニストのイザイのために書かれ、イザイの結婚を祝して彼に献呈された。
 第1楽章(アレグレット・ベン・モデラート)は内面的叙情を湛えた楽章。ヴァイオリンに出る第1主題は全曲の最も重要な循環主題となる。第2楽章(アレグロ)は情熱的なソナタ形式楽章で、起伏に富んだ展開をみせる。第3楽章(レチタティーヴォ-ファンタジア)は内省的な緩徐楽章で、前半は即興的かつ雄弁な語り口で運ばれ、後半は瞑想的な音楽が発展する。第4楽章(アレグレット・ポーコ・モッソ)は循環主題に基づく優美なロンド主題を中心に多様に展開するフィナーレで、副主題部には第3楽章の主題が用いられる。

F. ショパン:チェロとピアノのためのソナタ ト短調 op.65
1.Allegro moderato
2.Scherzo
3.Largo
4.Finale:Allegro
 フレデリク・フランソワ・ショパン(1810-49)の作品はほとんどがピアノ独奏曲で占められている。ピアノ独奏曲以外の作品はきわめて少なく、そのほとんどは初期に集中している。しかしこのチェロとピアノのためのソナタだけは晩年の1845年から翌年にかけて作曲されたもので、作曲者の生存中に出版された作品としては最後のものとなった。ショパンが晩年になってチェロのためにソナタを書いたのは、異国フランスで暮らす彼を支え続けてくれた親友のチェロ奏者フランショムの友情に報いるためであった。作品は、フランショムと2人で演奏すべく、彼のチェロの技巧とショパン自身のピアノの表現力を存分に発揮できるように書かれているが、幻想的な趣を感じさせるその作風には、晩年のショパンの孤独な心境が垣間見られる。
第1楽章(アレグロ・モデラート)は、雄弁なチェロと表情豊かなピアノが絡む自由なソナタ形式楽章。第2楽章(スケルツォ)は活気に満ちたスケルツォで、歌謡的なトリオを挟む。第3楽章(ラルゴ)は夜想曲風の短い幻想的な緩徐楽章。第4楽章(フィナーレ:アレグロ)は自由なソナタ形式によるフィナーレで、チェロとピアノがぶつかり合いつつ情熱的に発展し、最後は長調で閉じられる。

C. ドビュッシー:チェロとピアノのためのソナタ ニ短調
1.Prologue : Lent
2.Sérénade : Modérément animé
3.Finale : Animé
 フランス近代の作曲家クロード・ドビュッシー(1862-1918)は斬新で精妙な音感覚のうちに豊かなイメージの世界を作り出すような新しい音楽を追求し、フランス音楽界に革新をもたらした。そのドビュッシーも、後期になるとより抽象的な響きの世界を志向するようになる。特に晩年の1915年に企画された種々の楽器によるソナタは、ドビュッシーのそうした方向を端的に示すものである。これは第1次大戦に衝撃を受けた彼がフランスの伝統文化を守ろうと考えて企画したもので、当初6曲が計画されていたが、結局死によって3曲のみ実現されるに留まった。その最初の作として1915年に完成されたのが、このチェロとピアノのためのソナタである。古典的構成を土台としつつも、ドビュッシーらしい鋭敏かつニュアンス豊かな語法でもって、晩年の彼独自の響きの世界を現出したソナタである。
第1楽章(プロローグ:ゆるやかに)はレチタティーヴォ(叙唱)風の雄弁な語り口を持った楽章。第2楽章(セレナード:ほどよく活気をもって)は深い夜の世界のイメージだろうか。ピッツィカートが効果的に用いられている。第3楽章(フィナーレ:活気をもって)は気分の変化に満ちた起伏溢れるフィナーレである。

文:寺西基之