【追悼】スティーヴン・コヴァセヴィチ氏

ピアニスト、スティーヴン・コヴァセヴィチ氏のご逝去の報に接し、心から哀悼の意を表します。

アルゲリッチ総裁のご縁からコヴァセヴィチ氏は、第8回(2006年)の別府アルゲリッチ音楽祭にご出演いただきました。
氏の演奏は広く知られるように、クラシック音楽の伝統を大切にされながらも、ご自身の個性でもある美しい繊細さと共に、静かに燃える音楽の情熱が聴こえてくる演奏家でした。

初めてお会いしたのは、ジュネーブへ現在映画監督として活躍中の幼いステファニー・アルゲリッチ監督を訪ねられた折でしたが、物静かな印象を受けました。
「パパの手を見て、お指が太っていて、大きいでしょう!」と嬉しくてたまらない様子で父親の手を見せてくれ、傍らで微笑んでいたコヴァセヴィチ氏の表情が強く印象に残っています。

現在、そのステファニー・アルゲリッチ監督は、新作映画「Kyushu Moon」の撮影が続いており、その最中での訃報でした。
深い悲しみに耐えて今も懸命に、総勢約100名の人々と撮影を続けています。

真夜中にコヴァセヴィチ氏の訃報が届いたその夜は、久しぶりに美しいお月さまが静かに輝いた夜でした。
ステファニー監督に偶然にメールで美しいお月さまが、あなたの撮影を祝福しているよう、と送ったその夜でした。
訃報に接して、お嬢さんの活躍を見に来てくださったように感じました。

コヴァセヴィチ氏の伝統を重んじられ、深い洞察力に裏打ちされた演奏は、これからも貴重な歴史として次世代へ受け継がれていくことを願いたいと思います。
心からご冥福をお祈りします。

2026年11月4日
公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団
理事長 伊藤 京子