曲目解説【5/16 室内オーケストラ・コンサート】 第23回別府アルゲリッチ音楽祭

S. プロコフィエフ:交響曲 第1番 ニ長調 op.25〈古典的〉
1. Allegro
2. Larghetto
3. Gavotte:Non troppo allegro
4. Finale : Molto vivace
セルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)は1914年にペテルブルク音楽院を卒業したが、すでに在学中からモダン志向の作曲家としてロシア楽壇の注目の的となっていた。この交響曲第1番は卒業後の1917年に書かれた作品で、一見古典的なスタイル(伝統的な楽章構成、明快な音楽性、シンプルな楽器編成)の衣を借りながら、その裏で細部の意外な和声処理やリズムのズレなど、アイロニカルに現代感覚を打ち出しており、いわば古典派様式をパロディ化した作品である。それは1920年代にヨーロッパの音楽界の大きな潮流となる新古典主義のあり方を先取りするとともに、後年のソ連時代のプロコフィエフの作風(一見明快なスタイルの裏に批判的な意味を含ませた作風)に繋がっていくものともいえよう。
 第1楽章(アレグロ)はきびきびした第1主題とユーモラスな第2主題を持つ溌剌としたソナタ形式。第2楽章(ラルゲット)は叙情的な緩徐楽章で、こうした叙情性もプロコフィエフの特質の一面である。第3楽章(ガヴォット:ノン・トロッポ・アレグロ)は古い舞曲ガヴォットの皮肉っぽいパロディ。第4楽章(フィナーレ:モルト・ヴィヴァーチェ)は躍動感溢れる鮮やかなフィナーレである。

I. ストラヴィンスキー:〈プルチネッラ〉組曲
1.Sinfonia
2.Serenata
3.Scherzino – Allegro – Andantino
4.Tarantella
5.Toccata
6.Gavotta con due variazioni
7.Vivo
8.Minuetto - Finale
 ロシア・バレエ団の主催者ディアギレフの依頼で作曲したバレエ音楽「春の祭典」(1913年)で伝統的な音楽のあり方を根本から揺るがしたイーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)は、第1次大戦後には一転して新古典主義の方向へと向かう。バレエ音楽「プルチネッラ」は彼のそうした新しい方向を告げる作品で、やはりディアギレフの委嘱によって1919年から翌年にかけて作曲された。18世紀イタリアの喜劇(コンメディア・デラルテ)の精神を現代に蘇らせるべく、18世紀イタリアの作曲家ペルゴレージほかの作品を素材としつつ、そこに現代的な味付けを施して生き生きしたバレエに仕立て上げた作品である。原曲のバレエは独唱も含むものだが、ストラヴィンスキーは1920年に声楽を省いて全体を再編した組曲を作り上げており(1947年に改訂)、本日は演奏されるのはその組曲版である。
組曲の内訳は、第1曲「シンフォニア(序曲) 」、第2曲「セレナータ」、第3曲「(a)スケルツィーノ~(b)アレグロ~(c)アンダンティーノ」、第4曲「タランテッラ」、第5曲「トッカータ」、第6曲「2つの変奏を伴うガヴォット」、第7曲「ヴィヴォ」、第8曲「(a)メヌエット~(b)フィナーレ」からなっている。

Z. コダーイ:ガランタ舞曲
ゾルターン・コダーイ(1882-1967)は20世紀のハンガリーを代表する作曲家である。修行時代に民俗音楽に目覚め、1905年から自らの足でハンガリー各地を巡って民謡を収集して研究するようになり、1906年にはハンガリー民謡の韻律法についての論文で博士号を取得した。作曲家としてはそうしたハンガリーの民俗音楽の語法を生かした民族主義的な作風を追求し、また教育者としては民謡をもとに独自のメソードを作り上げている。
「ガランタ舞曲」は1933年にブダペスト・フィルハーモニー協会創立80周年記念のために作曲された管弦楽作品で、ハンガリーに住むロマ(ジプシー)の音楽を素材に作られた。出版にあたってコダーイ自身が記した解説には、ガランタは自分が少年時代を過ごしたハンガリーの町で、ここの有名なロマ楽団こそ自分が耳にした初めてのオーケストラだったこと、1800年頃ウィーンで出版されたハンガリー舞曲集の中にガランタのロマ音楽が入っていたので、そこから主題を選んだことが記されてある。ロマの舞曲を用いつつ、鮮やかな管弦楽の扱いのうちに情熱と哀感に満ちた音楽が発展する作品で、最後の舞曲の高揚感は圧倒的である。初演は1933年10月23日ブダペストにおいて、エルネー・ドホナーニの指揮でなされている。

M. ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
1.Allegramente
2.Adagio assai
3.Presto
 モーリス・ラヴェル(1875-1937)はフランスの近代音楽に新しい展開をもたらした作曲家だった。後期にはジャズの語法も積極的に取り入れており、1929年から31年にかけて書かれたこのピアノ協奏曲もそうした後期の彼の代表作である。急緩急の伝統的な3楽章構成によりつつ、そこにジャズの語法、躍動的なリズム、複調などのモダニズムを混ぜ合わせたセンス満点の作品となっており、鮮やかな技巧や色彩を振りまく独奏ピアノとソロイスティックな活躍を見せるオーケストラの各楽器の組み合わせが多様な響きを生み出す軽妙洒脱な協奏曲である。初演は1932年1月14日パリでマルグリット・ロンの独奏、作曲者自身の指揮で行なわれた。
 第1楽章(アレグラメンテ)は鞭の一打ちに始まり、快活な第1主題(ピッコロとトランペット)と叙情的な第2主題(ピアノ独奏)によって発展する。ハープのカデンツァ風の一節も注目される。第2楽章(アダージョ・アッサイ)はピアノが叙情的な歌を紡いでいく緩徐楽章で、主題再現ではコーラングレに旋律が移り、ピアノがそれを美しく彩る。第3楽章(プレスト)はめくるめくばかりの急速なトッカータ風の音の動きで運ばれる短くも鮮やかなフィナーレである。

文:寺西基之