【日時】 2022年5月16日(月) 開場18:00 開演18:30 終演21:00(予定)
【会場】 東京都 / 東京オペラシティ コンサートホール
【出演】 マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)、チョン・ミン(指揮)、
ミッシャ・マイスキー(チェロ)、ウィリアム・チキート(ヴァイオリン)、
東京音楽大学オーケストラ・アカデミー



H・ベルリオーズ 序曲《ローマの謝肉祭》
H. Berlioz Overture "Roman Carnival", op.9

 謝肉祭(カーニバル)とは、キリスト教会暦の四旬節の直前におこなう世俗的な祝祭を指す。四旬節は、復活祭の46日前となる「灰の水曜日」に始まる斎戒期。初日から復活祭の終わりまで、信徒は肉食をしない。その直前に「肉の食べ納め」をするのが謝肉祭というわけだ。
 エクトル・ベルリオーズ(1803〜69)の《ローマの謝肉祭》は、このカーニバルを題材としたアートの中でもっとも有名な作品と言ってよい。作曲は1844年。ただし、その素材自体はもっと早くに出来上がっていた。
 ベルリオーズは1838年、オペラ《ベンヴェヌート・チェッリーニ》を初演した。作曲家は30年代前半、パリ・オペラ座での成功を目指し、歌劇の制作に取り掛かっていた。16世紀のチェッリーニに理想の芸術家像を見た作曲家は、この彫刻家を主人公に、2幕物のオペラを書き上げる。ベルリオーズはこのオペラから音楽的な題材を取り、演奏会用序曲を編んだ。それがこの序曲《ローマの謝肉祭》である。
 冒頭は謝肉祭の開始を告げる短い楽句。それを受けてイングリッシュ・ホルンが歌い出す。この旋律の変奏が続いた後、謝肉祭の本番が始まる。この軽快な部分は、祭に沸くローマのコロンナ広場を活写している。こちらもひとしきり変奏を重ねる。最後に各パートが結集、賑々しく曲を閉じる。



R・シューマン ピアノ協奏曲イ短調 作品54
R. Schumann Piano Concerto in a minor, op.54

 ロベルト・シューマン(1810〜56)のピアノ協奏曲イ短調にはふたつの源流がある。直接的な源は自作の《ピアノと管弦楽のための幻想曲》、間接的な源はクララ・シューマンの書いたピアノ協奏曲イ短調 作品7 だ。
 シューマンは1841年5月、《幻想曲》を書き上げた。45年、これをイ短調協奏曲の第1楽章とすべく、改訂に取り掛かる。同年6月に第3楽章、7月に第2楽章を作曲し、その後《幻想曲》を第1楽章へと書き換えた。
 第1楽章(=幻想曲)の構造にはクララの作品7の影が見え隠れする。イ短調という調を共有するのはもちろんのこと、その中間に変イ長調のアンダンテを置く点も同じだ。
 クララはピアニストとしてこの《幻想曲》を試演した。それをうけて次のように記す。「ピアノとオーケストラとが絶妙に絡み合う。どちらか一方がないことは考えられない」。この言葉は《幻想曲》(=協奏曲第1楽章)に対するものだが、作品54全体にもあてはまる。
 この協奏曲は体裁こそ3つの楽章を持つが、その実、全体がひとつの主題(とその派生形と)で不可分に結びつけられる点で、単一楽章の形に近づいている。第2楽章と第3楽章との間にかかるブリッジで第1楽章の主題を回想し、次の楽章の冒頭(第1楽章の主題の反行形)を先取りした上で、第3楽章の華々しい世界に続けざまに入るのも、一体感を強める工夫のひとつである。



R・シューマン《幻想小曲集》作品73
R. Schumann Fantasy Pieces, op.73

 シューマンは後年、「僕のもっとも実り豊かな年」として1849年を述懐している。この1年だけでおよそ40の作品を生み出した。《幻想小曲集》作品73は、そのとき豊かに実った果実のひとつだ。
 作曲家は同年2月11日からわずか2日で、この作品を書き上げた。この時期の室内楽には共通の特徴がある。それは家庭音楽を指向すること。ごく小さい編成をとり、さらにその編成の一部を他の楽器に入れ替えることができる。シューマンは機動性と柔軟性とで、作品を家庭の居室に添わせようとした。
 作曲家は「ピアノとクラリネットのための」作品73でも、クラリネットをヴァイオリンやチェロに置き換えてもよいと指示を残している。同作の弦楽器での演奏が盛んなのは、こうした経緯があるからだ。
 作品は3曲からなるが、間断なく奏される。シューマンは3曲を単にひとつづきにしただけでなく、ひとつの主題を“かすがい”として全体を統一している。第1曲「はかなげながら表出的に」のピアノ・パートに現れる旋律を、第2曲「生き生きと軽やかに」で受け継ぐ。情熱的な第3曲「急いて火を吹くように」では終結部の前に第1〜3各曲の旋律素材を回想する。
【演奏者】 
 マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)、ミッシャ・マイスキー(チェロ)



J・ブラームス 交響曲第1番ハ短調 作品68
J. Brahms Symphony No.1 in c minor, op.68

 ヨハネス・ブラームス(1833-1897)の交響曲創作は1855年ごろに始まる。62年にはのちの交響曲第1番第1楽章につながる「アレグロ」を書いた。その後12年に渡り、ブラームスがこの作品に関わった形跡はない。62年といえば、ブラームスがウィーンに拠点を移した年。そのときから長らく、作曲家は交響曲との関係を絶つ。
 1874年になりブラームスは、改めて第1番に着手。76年に全楽章を完成させた。構想から20年以上が経過していた。
 作曲家は第1楽章に、ハイドンに通じる重厚な序奏を置いた。先人と異なるのは序奏に主部の第1主題と第2主題を埋め込み、楽章全体の連関を強めたこと。また、展開部にも新しい旋律を導入する。17世紀のコラール《雄々しかれ、我が弱き心よ》の引用だ。楽章は終わりにかけて詠嘆の度合いを強める。
 オーボエ、ヴァイオリン、ホルンの独奏部分が印象的な第2楽章、いっとき呼吸を整えるかのように優雅で短い第3楽章を経て、またも序奏付きの第4楽章にいたる。楽章全体は、コラール風の楽句で第1主題と第2主題のユニットを2セット挟み込む新機軸。ブラームスはここで、古めかしい響きと形式の新しさとを直接、結び付けている。



解説:澤谷夏樹

※曲目、演奏順、演奏者等は変更になる可能性がございますのでご了承ください。



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