【日時】 2022年5月7日(土) 開場14:30 開演15:00 終演17:00(予定)
【会場】 別府市 /しいきアルゲリッチハウス・サロン
【出演】 亀井聖矢(ピアノ)



L・v・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 op.53「ワルトシュタイン」
L.v.Beethoven: Piano Sonata No.21 in C major op.53 "Waldstein"

1.アレグロ・コン・ブリオ Allegro con brio
2.イントロドゥツィオーネ、アダージョ・モルト Introduzione: Adagio molto
3.ロンド、アレグレット・モデラート Rondo: Allegretto moderato

 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770−1827)は初期には18世紀のいわゆる古典派様式から出発したが、中期にはそうした従来の様式の枠を拡大し、大規模でダイナミックな新しいスタイルによったスケール豊かな傑作を次々と生み出すこととなる。この「ワルトシュタイン」ソナタもまさにそうした中期の傑作群のひとつで、1803年から翌年にかけて作曲されている。「ワルトシュタイン」と呼ばれるのは、かつてベートーヴェンが少年だった頃に多大な援助をしてくれたワルトシュタイン伯爵にこのソナタが献呈されたことによるもので、内容的にも恩人に捧げるにふさわしい堂々とした広がりと輝かしい演奏効果を持つものとなっている。そうした作風は、作曲の少し前にピアノ制作者エラールから最新のピアノを贈られたこととも関わっている。
 第1楽章(アレグロ・コン・ブリオ)は、シンフォニックともいえるスケールの大きいソナタ形式楽章。第2楽章(アダージョ・モルト)は深い情調を湛えた緩徐楽章だが、“イントロドゥツィオーネ(導入)”と記されているように次の楽章への導入的な役割を持ち、そのまま明るいロンド主題を中心に雄大な発展を繰り広げる第3楽章(アレグレット・モデラート)に続いていく。



S・ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 op.36(1931年版)
S.Rachmaninov: Piano Sonata No.2 in b-flat minor op36(1931version)

1. アレグロ・アジタート Allegro agitato
2. レント Lento
3. アレグロ・モルト Allegro molto

 ロシア出身の作曲家セルゲイ・ラフマニノフ(1873−1943)は自身が卓越したピアノの名手だっただけに、数多くのピアノ曲を残した。それらは、ロシア風の叙情とヴィルトゥオーゾ的な技巧性とを結び付けたロマン的な書法にその特質がある。作曲家としてすでに円熟期にあった1913年に書かれたソナタ第2番もそうした彼の個性がよく示された作品で、ロシア的な暗い情感、起伏の激しい感情性、ロマンティックな甘美さが、ピアニスティックな書法のうちに打ち出された名作である。しかしラフマニノフは後になってこのソナタがあまりに長大で複雑すぎると感じるようになり、亡命後の1931年に大幅な改訂を行ない、原曲の名技的な部分をかなり思い切って削減するとともに、錯綜した音の綾を簡素化して、より明快な改訂版を作り上げた。初版も改訂版もそれぞれのよさがあるが、本日は改訂版によって演奏されるという。
 全体は3つの楽章でなる。第1楽章(アレグロ・アジタート)は、起伏の激しい劇的な展開を示すソナタ形式。第2楽章(レント)はいかにもラフマニノフらしい甘美な叙情性に満ちた緩徐楽章。そのまま続けられる第3楽章(アレグロ・モルト)はラプソディックな発展を示す変化溢れるフィナーレである。



F.リスト:超絶技巧練習曲 より 第4番 「マゼッパ」S.139/4 R.2b
F.Liszt: Études d'exécution transcendante No.4 "Mazeppa" S.139/4 R.2b

 ロマン主義が花開いた19世紀はまた演奏家の華麗な名技性が追求された時代でもあった。ピアノの分野でそうした名技性を究めた音楽家がフランツ・リスト(1811−86)だった。子供時代から名ピアニストとして名をあげた彼は、早くから練習曲の創作を試みている。その最初の試みはまだ15歳の時の1826年に出版された12曲だった。彼はその後これに手を加え、1839年に出版し直す。そしてヴァイマルで活動していた壮年期の1851年にまたも改訂を加えて翌年に出版したのが、最終稿としての『超絶技巧練習曲』である。つまり最初の形から25年をかけて練り上げた練習曲集ということになる。興味深いのは、この最終稿で全12曲のうちの8曲に新たに文学的あるいは絵画的な連想に結び付く題が付けられたことだ。この最終稿が作られた1850年前後はリストが標題音楽の手法を究めていた時期だった。かつて書いた練習曲を、そうしたロマン派好みの標題音楽的な発想で捉え直して改訂したのが『超絶技巧練習曲』といえよう。名技性と標題性の融合という点で、この曲集はまさにリストらしい作品である。
 その第4番「マゼッパ」(ニ短調、アレグロ)は、敵の手で野生の馬の背に縛り付けられたまま大平原を横切っていくマゼッパの騎行が迫真的に描かれている。



M・ラヴェル:夜のガスパール
M.Ravel: Gaspard de la nuit

1.オンディーヌ Ondine
2.絞首台 Le gibet
3.スカルボ Scarbo

 フランス近代の音楽の展開に大きな役割を果たしたモーリス・ラヴェル(1875−1937)は、一方で古典的志向を示しつつも、斬新な響きの世界を追求した作曲家だった。1908年の『夜のガスパール』は彼の革新性が示された作品で、19世紀フランスの詩人A・ベルトランの怪奇的な幻想詩から得た詩的イメージを大胆な響きで表し出した傑作だ。そうした自由な幻想性の一方、全体があたかも3楽章のソナタ(ソナタ形式を応用した第1曲、緩徐楽章としての第2曲、スケルツォ風終曲の第3曲)のような構成で作られている点にラヴェルの古典志向が窺える。
 第1曲「オンディーヌ」は、人間の男を愛したオンディーヌ(水の精)が男に拒否され、すねて涙を流して水滴となって消え失せる、といった幻想を、ゆったりした旋律、音型的な動き、精妙な和声で描く。第2曲「絞首台」は、シンコペーションで単調に鳴り続ける鐘の音(変ロ音)を背景に、それに纏い付く和声の動きが絞首台の不気味な雰囲気を描出する。第3曲「スカルボ」はグロテスクな小妖怪スカルボが活発に動き回り最後に消える様をスケルツォ風に表した技巧的な曲で、ラヴェル自身当時難曲中の難曲として知られていたバラキレフの「イスラメイ」(次項参照)を超える難しさを意図したと述べている。



M・A・バラキエフ:東洋風幻想曲「イスラメイ」
M.A. Balakirev: Oriental Fantasy "Islamey"

 ミリー・バラキレフ(1837−1910)は、19世紀後半のロシアで国民楽派の運動を主導した作曲家グループ「力強い仲間たち(五人組)」のリーダー的役割を果たした作曲家で、伝統的なアカデミズムに拘らない独自の国民的書法を追求した。ロシアや周辺地域を訪ねて民謡を採集し、それを作品に生かしてもいる。
 自身が優れたピアニストだったバラキレフは多くのピアノ曲を作曲しているが、中でもとりわけよく知られているのが1869年に作曲された「イスラメイ」(1902年に改訂)である。彼は1863年にコーカサスを訪れたが、その際に“イスラメイ”という民俗舞曲を知った。そしてこの舞曲を第1主題とし、さらにモスクワのボリショイ劇場のアルメニア人俳優ラーザリを通して知ったクリミアのタタール人の民謡を第2主題に用いて作り上げたのが、この「イスラメイ」である。民俗的要素をリスト風の名技性に結び付けたヴィルトゥオーゾ的な華やかな曲で、ロシア国民楽派のひとつの側面でもある東洋的エキゾティズムを端的に示した独創的な作品である。民族的な奔放さを鮮やかな技巧で表現するだけの並外れた技量を演奏者が必要とする難曲であり、バラキレフ自身ですら弾きこなせなかったといわれる。



解説:寺西基之

※曲目、演奏順、演奏者等は変更になる可能性がございますのでご了承ください。



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