【日時】 2021年6月22日(火) 開場18:15 開演19:00 終演21:00(予定)
【会場】 大分市 / iichiko総合文化センター・iichikoグランシアタ
【出演】 藤田真央(ピアノ)



W. A. モーツァルト(1756-91)
ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調《トルコ行進曲付き》K. 331(300i)
ピアノ・ソナタ 第8番 イ短調 K.310(300d)
ピアノ・ソナタ 第15番 へ長調 K.533および494
ピアノ・ソナタ 第18番 ニ長調 K.576

W. A. Mozart
Piano Sonata No.11 in A major "Alla Turca" K.331 (300i)
Piano Sonata No.8 in a minor K.310 (300d)
Piano Sonata No.15 in F major K.533 & 494
Piano Sonata No.18 in D major K.576

モーツァルトのピアノ・ソナタ群は、作曲家自身の旅と切っても切れない関係にある。プログラムに並ぶ4曲も例外ではない。
第8番(新全集第9番)イ短調 K.310(300d)は1778年初夏の作品。モーツァルトがパリに滞在する折に書き上げた。故郷ザルツブルクを発ち、マンハイムを経て同年3月下旬、母とともに“花の都”にやってきた。このパリ旅行では失うものが多かったが、得たものもたくさんある。
滞在中の7月、同地で母を亡くした。就職活動も不首尾。曲を依頼され書き上げるも、初演してもらえない。一方、パリの趣味に合わせて書いたオペラや交響曲は好評を得た。同様にパリ風のさまざまなスタイルを室内楽にも活かし始める。旧師クリスティアン・バッハとも再会を果たした。
モーツァルトはこうした中、 第8番を書いた。母の死が楽想に影響しているかは分からない。短調の作品がこの時期、増えたのは確かだが、短調=悲しみと割り切れるほどことは単純ではない。
そういうことを差し引いてもなお、この作品はどこか特殊だ。パリで求められたはずの社交性が、この作品にはあまり現れない。第1楽章は「マエストーソ」の指示通り「堂々と、荘厳」な楽想。さらに、ピアニッシモからフォルティッシモまでの幅広い音量の落差を求めている。単に「悲しみ」の短調とは違う。作曲家は第2楽章でも細かく強弱を指示。ロンドの第3楽章では、ロンド主題とエピソードとの類似によって、求心力を高める。
 
《トルコ行進曲》はモーツァルトのピアノ・ソナタの中で、もっとも有名な音楽だろう。この曲はもともと、ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 K. 331(300i)の終楽章だ。作曲はおそらく1783年のウィーン。この街の人々はこの時期、国境まで間近に迫るオスマン・トルコの脅威に怯えつつ、中東の国へのオリエンタリズムに目を輝かせてもいた。《トルコ行進曲》はそんな「精神の旅」を反映している。
全体の構成の点でもこのソナタは、例外的な作品のひとつだ。アレグロ(快速)のソナタ楽章でなく、アンダンテ(歩く速さ)の変奏曲楽章を冒頭に置き、メヌエットを間に挟み、異国情緒あふれる行進曲で締める。
第1楽章は主題と6つの変奏。調の長短、速度の緩急を対比させながら、作曲家は変奏の手札をさまざまに切っていく。第2楽章、メヌエットはともすると単純にになりがちだが、ここでは“聴くための舞曲”にふさわしい、ニュアンス豊かな節回しが全体を彩る。終楽章の聴きどころはもちろん「トルコ風」の部分。前打音付きの強いアクセントに「イェニチェリ(親衛隊)のメフテル(軍楽)」がこだまする。

モーツァルトは1784年から自作品目録をつけている。作曲家はそこに、86年6月10日付けで《小ロンド》と書き込んだ。この作品は翌87年に出版された。続いて88年1月3日、《アレグロとアンダンテ》なる曲を目録に加える。その年のうちにホフマイスター社が、《ロンド》と《アレグロとアンダンテ》とをまとめ、1曲のソナタとして出版した。これが今日、ピアノ・ソナタ 第15番 へ長調 K.533および494として知られる。K.533が 《アレグロとアンダンテ》、K.494が《ロンド》を指す。つまり、それぞれ独立に成立したふた組の楽曲が、ちょっとした「旅」の末に出会い、ひとつの作品として改めてこの世に出た。
第1楽章の冒頭は右手だけ。それだけでも印象的だが、モーツァルトはそこにオクターブの跳躍を加え、聴き手の耳をしっかりとつかむ。短調にたびたび振れながら、とつとつと歌うように音楽を前に進めるアンダンテを経て、終楽章にいたる。作曲家はソナタに挿入するとき、このロンドに手を入れた。最終部分に重みを付け加え、多楽章作品の締めくくりにふさわしい形に整えている。
 
自作品目録への記入は続く。1789年7月には生涯最後のピアノ・ソナタとなる、第18番 ニ長調 K.576を書き込んだ。89年といえばモーツァルトが、就職活動のためにベルリン方面に出かけた年。プロイセン国王にも謁見がかない、ポストも用意されたらしいが、作曲家はそれを蹴ってウィーンに帰還する。かねてこの作品は、このプロイセン訪問の時に王族に委嘱されたと考えられてきた。モーツァルト自身も「(王女のために)簡単なソナタを6曲、書く」と友人への手紙に書く。ただ、どうもこの作品は、この手紙に言及されたソナタのひとつではなさそうだ。話は単純で、K.576は決して「簡単な」作品ではないのである。
第1楽章は「狩猟ホルンの信号」で幕を開ける。それに対する応答が続き、両者がポリフォニックに絡み合う。この“古風なたたずまい”が曲の難易度を高める。第2楽章でも“古風なたたずまい”は顔を出す。中間部の即興的な部分は、前時代のトッカータやファンタジーを思わせる。終楽章ではポリフォニーを、メリハリのある楽想でつむぎ出していく。リズムの運びも凝っている。

解説:澤谷夏樹

※曲目、演奏順、演奏者等は変更になる可能性がございますのでご了承ください。



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