マルタ・アルゲリッチ 音楽祭公演を終えて

今回第22回別府アルゲリッチは2年のコロナによるブランクを経て、5月31日アルゲリッチ芸術振興財団総裁でもあるマルタ・アルゲリッチの出演する公演が無事に終了しました。
ご来場いただきました皆さま、ご支援をいただきました皆さまに心から御礼申し上げます。

31日の最終日、熱海での公演はコロナを経験した今、日本の社会や世界中に起こっている変化の中で、日本の伝統文化「能」と西洋のクラシック音楽の交流を通して、精神世界の大切さを考えてみたいと思いました。

そして国内外へここ日本から発信することで、日本の精神文化、クラシック音楽の本質を感じていただけるのでは、と思ったのです。
その事がこの企画の動機でした。

この公演が実現出来たのはMOA美術館とのご縁から始まりました。
内田館長から辰巳満次郎先生を御紹介いただき、人間国宝大槻文蔵先生のご協力をいただけることとなりました。全ての演出をお引き受けいただきました辰巳先生のご尽力無しには、この公演は実現しませんでした。

日本が近年忘れ去っていく精神的な世界を人がもつあらゆる感情−喜び、哀しみ、怒り、苦悩、慰め−を静寂な能における表現と西洋のバッハの音楽が融合し表現されていく様は、あらゆる人類が肌の色、宗教、政治、文化を超越してゆける可能性をも示したように感じています。

様々な感情を経て大槻先生が演じられた魂がピアニストの奏する音楽を称賛し喜びと共に去っていく様は、他者に対する尊重と思いやりを感じさせるものでもありました。
謙虚さ他者を思う思いやりこそ、日本からだからこそ発信をする意味があるとも思いました。

クラシック音楽の父と云われているバッハは「音楽は言葉の必要としない共通言語だ」と語り音楽の本質は「魂から魂へ」と伝えられるものだ、と語っています。ベートーベンは自身が苦悩しながらも、音楽に救われ、今も多くの人々がその音楽に励まされています。

日本が持つ繊細な中にも強さを秘める精神世界を表す能楽も、多くの人々の努力によってその精神が引き継がれていますが、日本の誇りとして知る機会が増えていくことも願っています。

自分達の住む国への誇りや思考することを忘れ、軽薄な社会風潮が様々なものを壊していくことへの警鐘は、このような試みを通して鳴らし続けなければならない、と改めて強く感じました。
映像作家ステファニー・アルゲリッチによって、この公演はドキュメントも制作され世界へ発信されます。
多くの皆さまにご覧いただきたいと願っています。 

音楽には社会を変えるような「力」はありませんが、人々の思いや心を動かす不思議さを秘めています。私たち一人一人が諦めなければ、そして各々の生きる場所で努力を続ければきっと善き社会となることを信じていきたいと思っています。

令和4年6月10日
公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団 副理事長
別府アルゲリッチ音楽祭 総合プロデューサー
伊藤 京子

令和4年5月31日開催
MOA美術館 開館40周年記念
熱海座 マルタ・アルゲリッチ & 大槻文藏 スペシャル公演

【出演】
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)、大槻文藏(シテ方観世流能楽師)、辰巳満次郎(シテ方宝生流能楽師)、大宮臨太郎(ヴァイオリン)、坂口弦太郎(ヴィオラ)、市 寛也(チェロ)


L.v. ベートーヴェン:3つのピアノ四重奏曲 第3番 WoO36-3 ハ長調
マルタ・アルゲリッチ、大宮臨太郎、坂口弦太郎、市 寛也

仕舞「邯鄲」
大槻文藏(シテ)、武富康之(地謡)、大槻裕一(地謡)、稲本幹汰(地謡)

解説
辰巳満次郎

J.S. バッハ:パルティータ 第2番 BWV826 ハ短調−ピアノ独奏と能舞
マルタ・アルゲリッチ、大槻文蔵(能舞)

演出/辰巳満次郎
企画、プロデューサー/伊藤京子
主催/MOA美術館
協力/公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団





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