今年は何か不思議な、いろいろな感情の交じり合った、エモーショナルな経験をしました。まず、周りにいる人々すべてがいつもよりずっと身近に、ずっと近い存在に感じられました。そして第2に、どこかとても新鮮な感情も溢れていたのです。でもどうしてそのような気持ちになったのか、何故なのか、分かりません。特に今日、第13回の音楽祭を終えて、それをとても、とても強く感じました。
もちろん他の場所でも同じような感覚を持ちました。大分でのタンゴの夕べ、北九州での室内楽、、、、今までにない新しい試みだったことも新鮮な気持ちを味わう背景にあったのでしょう。でも今回は今までの音楽祭では感じたことのない、違った感情を経験したのです。そう、感情を揺り動かされることの多い音楽祭だったと言えます。もちろん、悲しい震災がその背景にあり、それが一因であることは疑いのないことでしょう。でも、それだけでは説明のつかないところがあるのです。あたかも今回が第1回目であったかのような、、、今だかつてない感情が溢れてきたのです。
その良い例が最後の懇親会でのこと。日頃、私はスピーチをするのが大嫌いなのだけれど、広瀬知事の温かな言葉を受けて、とても自然に立ち上がり、ごく当たり前のように話し始めていました。言葉は簡単なものだったかもしれませんが、とても正直に、心から感じたままにお話をしました。あの時には、話をせずにはいられない不思議な感情が湧いてきたのです。今は、この気持ちをとても大切に温めていたいような、味わっていたいような、ただ静かに浸っていたいような、そんな気持ちです。
今回の音楽祭でも私の素晴らしい友達や音楽家が集ってくれました。フーベルトは再び登場して素晴らしいタンゴを披露してくれましたし、新たに参加してくれたバンドネオンの三浦青年も、チェロのユンソンやヴァイオリンのキム・スーヤンも本当に素晴らしい演奏を聞かせてくれました。今回もう一人忘れてはいけないのがヴァイオリンの清水高師です。シューマンの五重奏のソロでは何とも美しい音楽を聞かせてくれて、まさに新鮮な感情が溢れてきました。そしてタンゴではまた違う新たな顔を見せてくれました。そこに聞こえていたのは紛れもなく、まさにタンゴだったのです。実際のところ、清水さんは震災の後、ショックから気持ちが落ち込み、前に進む気力が湧かない日々を過ごした、とスピーチで話していました。その彼があの素晴らしいタンゴのソロを聞かせてくれたことを思うと、また特別の感慨を抱きます。
本当に特別な音楽祭でした。悲しい震災とその犠牲となられた方々、まだまだ深い悲しみにある方々、そんなかたがたと希望、エネルギーを分かちあいたいという強い気持ちが今回の音楽祭には溢れていました。そして何よりも私自身がそんな方々と共にありたい、分かちあいたいと、うそ偽りなく、強く思いました。そして周りのいる皆さんの気持ちもまた本当に正直で、真摯なものでした。本当に特別な想いのあふれる、特別な音楽祭だったのです。




公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団
874-0903 大分県別府市野口原3030-1 ニューライフプラザ
TEL:0977-27-2299 FAX:0977-27-2301